日経の「抜け駆け」にどう対抗するか
三菱地所が8月31日に東京駅に隣接する再開発プロジェクトについて記者会見を行いました。1兆円を超えるこのプロジェクトは、東京駅の日本橋口前(あるいは八重洲北口)からほど近い場所にあたります。2017年度から段階的に着工し、2027年度に最後の棟が竣工するということです。このうちの1棟は地上61階、高さ約390mの超高層ビルとなる予定で大阪のあべのハルカス(300m)を抜いて国内で最も高いビルになります。
このあたりは社会人になって最初に入ったビルから目と鼻の先。25年前には新日鉄や大和証券の本社があった場所です。ちなみに自分たちが働いていた鉄鋼ビルは一足先に再開発が進んでおり、この秋にリニューアルオープンします。
プロジェクトの記者会見は31日の月曜日に行われましたが、日経が29日の土曜日の朝刊1面で「東京駅前に400メートル級ビル 『ハルカス』抜き日本一」との見出しでその概要を報じました。三菱地所は「8月29日の日本経済新聞の報道に関して」と題するリリースを会見当日前に出しました。これによると、31日13時よりプロジェクトの内容に関する会見をおこなうことを事前に告知し、「発表までの報道・取材を控えていただくことを要請」していたとあります。
日経がその禁を破って「抜け駆けをした」ため、会見への日経の出席を拒否する内容の張り紙が会見場に掲示されたそうです。
この記事によれば、会見の1週間前に会見の案内を行い、「事前の取材や報道を控えてほしい」、「守られない場合は会見場の入場を断る」ことも併せて伝えていたそうです。また、記事を書いた記者に広報が問いただしたところ「出席を拒否されることを承知で書いた」と。
「黒板協定」という記者クラブの暗黙のルールがあります。記者クラブの幹事社に発表申込みの受付が完了した時点で、「発表前に記事にしない」という紳士協定です。以前はたいていの記者クラブには黒板があり、そこに会見内容や日時が書きこまれていたことの名残です。
この記事を読んで、日経の「抜け駆け」にどう対抗するかを考えてみました。日経は「経済報道の雄」として他紙に先んじて書くことを旨としており、以前ある編集委員から「他紙に抜かれたり、ネタが取れなければ、上司からは容赦なく罵倒される。未だに当時の上司の前では直立不動になる」といった話を聞いたことがあります。
■大きなニュースの記者会見は「飛び込み」でいい
もちろん発表内容次第です。ニュースバリューが高そうなら、当日の申し込みで差支えないと考えます。「緊急会見をすると迷惑をかける」という意識はわからなくもないし、確かにそういう面はあります。
それでも、「事前に書かれることを防ぐ」にはそうするしかありません。しかも、「飛び込み」の発表は記者にとって日常的なことなので、いろんなやりくりをして、会見場に駆けつけてくれると思います。
■「飛び込み」がダメなら2日前の申し込みにする
ニュースバリューを考えると、1週間前の告知は「早すぎた」と思います。当日の会見申込みがはばかられるのなら、せめて2日前(黒板協定を48時間前と定めている記者クラブもある)でいいと思います。
今年の春、とある外資系企業の記者会見の企画運営をしました。この時も1週間前に告知をしました。それなりのニュースバリューだと感じていましたが、日経が思いのほか関心を寄せ、断片的な情報を元に、会見の2、3日前に日経が記事にしてしまいました。もちろん事前に書いてもらおうという意図はなく、「詳しくは会見で」と説明したのですが。