出版不況は図書館の貸し出しのせい?
公立図書館で本を借りる人が増えたことが出版不況の一因ということで、大手出版社などが発売から一定期間、新刊本の貸し出しをやめるよう求める動きがあります。10月29日の朝日新聞の文化面に記事が出ていました。筆者と版元の合意がある新刊について「貸出の1年猶予」を求める文書を、11月にも図書館側に送る予定だと。
筆者はよく図書館で本を借りてきますが、昔から新刊に飛びつくことはほとんどしないほうです。また、文芸作品より実用書を好んで読むせいもあって、特に不都合に感じることもありません。文芸作品では村上春樹は学生時代から愛読していますが、「1Q84」すらこれから読もうとおもっているぐらいです。
地元の図書館には予約件数の多い本が検索で表示されますので、ためしに調べてみました。上位10冊は以下の通りです。10冊のうち8冊が文芸作品でほとんど知らないものばかりです。(10月29日現在)
1. 955件 火花(又吉直樹著)
2. 456件 サラバ! 上(西加奈子著)
4. 388件 サラバ! 下(西加奈子著)
5. 311件 フランス人は10着しか服を持たない(ジェニファー・L.スコット著)
6. 301件 流(東山彰良著)
7. 289件 鹿の王 上(上橋菜穂子著)
8. 257件 鹿の王 下(上橋菜穂子著)
9. 239件 教団X(中村文則著)
10. 237件 家族という病(下重暁子著)
今年の芥川賞受賞作品「火花」は市内に23冊所蔵されていますが、1000人近い人が予約待ちをしています。平均の貸出期間が1週間としたら、最近予約した人は1年近く待たされる計算です。
自分の読みたい本なら、そうとわかった時点で迷わず購入してしまいます。その一方で辛抱強く待っている人がこれだけいるということは、売れるべき本が機会損失を起こしているということにもなるのでしょう。
日本図書館協会のデータによれば、全国には3千以上の公共図書館があり、蔵書数は4億冊以上です。30年前に比べて、図書館の数は約2倍、蔵書数は約4倍と大幅に増えています。一部の新刊に予約が殺到するという現象が他の都道府県で起こっていたとしても不思議ではありません。
朝日の記事によれば「国内の書籍(雑誌を除く)の売上はピークの1996年から減る一方で、14年は7割弱に落ち込んだとあります。特に文芸系出版社はとりわけ苦境にあると。96年というとWindows95が発売され、インターネット利用者が増えた時期に重なります。本以外に楽しみを見つけたと考えられなくもないですが。
出版社側の言い分もわかりますが、出版の不振を図書館のせいにするのは酷というものです。また、図書館という公共の場で多くの人が心待ちにしている本を1年も貸し出しを猶予するのも釈然としません。1年という期間はそもそもどういう根拠なのでしょうか。