広報パーソンのつぶやき

事業会社の広報担当者と広報コンサルティングの経験からコミュニケーション全般をメインに、ライフスタイル風なネタも。全国通訳案内士(英語)

ニュースリリースにも「イーハンつける」ことを意識する

 

 「池上彰に聞く どうなってるのニッポンの新聞」という本を興味深く読みました。特に朝日新聞に汚点を残す形となった「吉田調書」報道と慰安婦報道の誤報問題から新聞報道のあり方、新聞記者の役割などは参考になりました。

池上彰に聞く どうなってるの? ニッポンの新聞

 本の中で、記事に「イーハン(1翻)つける」という業界特有の言い回しが出てきます。以前から見聞きしていた言葉でしたが、「より特徴のある記事にするために、よりインパクトの強い切り口で報じる」という意味だと説明しています。

 

 マージャン用語ですが「あがり役」が難しいほど「ハン」が増えて点数が加算されることから、転じてこのように言います。朝日新聞だけは、「角度をつける」というそうで、「記事の角度のつけすぎが事実を捻じ曲げた」結果、一連の誤報問題につながったと指摘しています。

 

 本の中で池上氏は「記者というのは記事を書くときに、『この内容だと載るのは社会面、いやひょっとすると地方版かもしれないな』などと、掲載位置を何となくイメージしているものです」といみじくも書いていますが、同じことは多くの広報担当者も考えているはずです。

 

 「内容的に『日経本紙』は難しいかな。でも『日経産業新聞』なら何とかいけるかも」などと、配信したリリースの行く末を夢想します。発表内容に「角度を付け過ぎる」わけにはいきませんが、ニュースバリューを高めることは広報担当者にとっても心がけるべきことです。

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 改めて企業が持っているネタの種類を整理しておくと、以下の三つに大別できます。

①経営情報
経営戦略(業務提携・M&A)、決算・財務、株価、組織・人事、社長(や経営幹部)の動向、福利厚生、採用

事業情報
事業部門の販売・マーケティング戦略や生産動向、新製品・新サービス、研究開発、設備投資

③社会情報
CSR・環境、事件・事故、その他(人もの、企業スポーツ)

yhkhashimoto.hatenablog.com

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 池上氏の本に、同じような切り口で報じた出来事を異なる視点で取り上げた結果、大きなニュースになるという事例が紹介されています。

 

 当時世間を震撼とさせた男児の誘拐事件(1963年の吉展ちゃん事件)の発生から2年後、「警視庁は捜査本部を解散して、それ以降は専従捜査員による特捜班をつくって捜査を継続することを発表」します。多くのメディアはそれをそのまま伝える中、NHKの記者は「警視庁、FBI方式で捜査」と報じ、一気に世間の注目を集める特ダネとなったと。

 

 内容は一緒でも視点を少し変えるだけで記事のインパクトが変わるという好例だと思います。「取材とは付加価値を高めること」と教わりましたが、それを改めて感じます。

 

 昔は記者とマージャンをする機会もよくありましたが、今はありません。せめて、リリース作りでは、少しでも高い役、つまり「イーハンつける」ことを意識したいものです。

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