読者にわかる文章を突き詰めると短い文章になるらしい
■読者にわかる文章とは何か
文章というものは、個人の日記でもない限り、読者を前提としています。なので、読む人のことを気にしながら書かなければなりません。ブログやニュースリリースのように、不特定多数が読者であれば、なおさらです。
「自己表現」(1970)では、読者に対する心遣いとして「『表現』がその名にふさわしいものであるためには、読者にわかる文章がつくられなければならない」と述べ、「わかりやすい言葉、というものは、誰もが知っていて、意味解釈の揺れ幅の少ない言葉のこと」とあります。
「自分の考えなり見分なりを『読者』に伝えることがその基本的な目的であるのに、わざわざ、それを難しくして、読者にわかりにくくすることに一生懸命になったりするひとがいる」とも。
■先人の心がけを忘れる現代人
谷崎潤一郎が著した「文章読本」からの引用もあります。唐の時代の詩人で平安文学にも影響を与えた、白楽天(白居易)についての逸話です。
白楽天は自分の作った詩を発表する前に、無学な年配者に読んで聞かせました。そして、わからない言葉があれば易しい言葉に躊躇なく、直したそうです。しかし、現代人は、このこころがけを「あまりにも忘れすぎている」と。
著者の加藤氏は、センテンスの長さは「できることなら40字、多くても50字をめどにすること。そして、それより短いものは無条件で大歓迎」と。パラグラフは「200字で一度改行」という基準を提案しています。
■短い文章に細部を描く
朝日新聞の夕刊1面に「素粒子」という短文コラムが掲載されています。世の中の動きを日に3テーマ、各50字程度で書いています。1月14日の同コラムではオバマ大統領、SMAP、桂春団治を取り上げていました。
その一つが「その白髪としわで時の流れに気づく。オバマ氏最後の1年。『最も極端な声のみが注目を集める』時勢に抗しつつ。」
全体で52字。これを3つのセンテンスで構成しています。簡潔で引き締まった文章です。
「頭の良くなる『短い、短い』文章術」(2005)の著者は、その「素粒子」をかつて8年間担当しました。「『短い文章』を作るとは頭の中を整理することであり、その整理がうまくいくかどうかによって文章の巧拙も決まる」と述べています。
さらに、「短い中にも『何か』がつまっていなければ『短い文章』とは言えない」とも。その「何か」というのはニュース性や意外性のことで、細部がしっかり描けていることです。
黒人初の大統領として「チェンジ」を掲げて7年前に当選したオバマ大統領。当選時の勢いは見る影もありません。先に紹介したコラムの「白髪としわ」、「最も極端な声」といった描写が短文のいいお手本になります。