USPとは顧客にとってのメリットで、自社の製品やサービスの強みなどではない
■「なぜ、あなたはここに存在するのですか」
「限界はあなたの頭の中にしかない」(2015年)という本を読みました。この本の著者であるジェイ・エイブラハムは本書の中で「私は、憂き目だらけの人生を経験」したと吐露します。経済的な面と結婚生活の両方において、二度すべてを失ったのだと。
貧しい生い立ちと波乱含みの半生を経て、現在では「実践マーケティングの巨匠」と評されるようになった、著者の人生論・マーケティング論です。裏表のない真摯な語り口に好感が持て、学びや気づきが得られる本です。
「あなたが生きる世界をより良くする」という項で、「なぜ、あなたはここに存在するのですか」という哲学的な問いかけをします。その答えは、「『あなたが存在する世界を、あなたが、より良くするため』に他ならない」と。
■「意識の変革には行動しかない」
では、どうすればその世界が「より良く」なるのか。その第一歩は「日常の意識の変革」。著者はこれを「マインドシフト」と呼びます。自分の中に眠る「崇高さ」を目覚めさせると決断するところから始め、「行動すればするほど」可能性は徐々に広がっていくと説きます。
さらに、働く意味を「あなたの存在を通して、あなたの存在する世界に価値を創出するため」と述べます。「あなたの存在する世界」を顧客との関係に置き換えると分かりやすいでしょう。価値の提供には行動が欠かせず、しかも行動し続けるしかない。つまり、「意識の変革には行動しかない」と。
■本物のUSP
マーケティングや出版関連の書籍を読むと、時々USP(Unique Selling Proposition)という言葉が出てきます。USPとは「自社や自社製品が持つ独自性やウリ」のこと。本書にも出てきますが、「間違った解釈」を事例に基づいてただしてくれるという点で新鮮です。
著者曰く、本物のUSPの例はドミノ・ピザが打ち出した「熱々のピザを30分以内にお届けします。遅れたら値引きします」にあるといいます。顧客が知りたいのは、あくまで顧客にとってのメリットなのであり、自社の製品やサービスの強みなどではない。
伝えるべきは、「この商品はあなたのためにあります。私のためではありません。他から得られないものを私から買ってください」。USPは理念そのものであり、一体化しなければならないものだとも述べています。他とは違う優れたメリットを提供できるという姿勢を示すことがUSPの神髄なのだと。
■ステュー・レオナルドという会社の企業理念
これを知って、以前読んだフィリップ・コトラーの本にあった、とある会社の企業理念を思い出しました。日本ではなじみの薄い会社ですが、ステュー・レオナルド(Stew Leonard’s)は、アメリカで独自路線を貫きながら、多くの消費者の支持を集める、流通業界の異端的な存在。
5つの小売り店舗をニューヨークなどで展開し、フォーチュンによる「社員が働きやすいベスト100」に10年連続で選ばれ、ニューヨーク・タイムズに「乳製品のディズニーランド」と評されている会社です。米国企業にとってフォーチュンに選ばれることは最大の名誉の一つです。
その全ての店先に大きな石板に以下のように刻まれているそうです。
Rule #1 -- The Customer is Always Right
Rule #2 - If the Customer is Ever Wrong, Re-Read Rule #1."
「規則1:顧客は常に正しい。規則2:顧客が間違っている場合、規則1を読め」