パブリシティに成功しながら、その事業に失敗することもある。でも、やらないよりはましです
■「歴史は、マスコミでは成功しながら失敗した事例で満ち満ちている」
広報担当者は、新聞やテレビで広く、そして大きく取り上げられることに心を砕きます。言うまでもないことですが。それが達成されれば、得られる満足感は計り知れない。そうした成功体験は自信につながります。しかし、「歴史は、マスコミでは成功しながら失敗した事例で満ち満ちている」といいます。
これは、「売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則」(1994年)からの引用です。この本が出されたのは20年以上前ですが、この頃のスティーブ・ジョブズはアップル社を離れ、自らが創業したネクスト社にいた時期。
ネクスト社の新型コンピューターの記者会見には、「会見場に数千人の収容能力があった」にもチケットを配るほどの大盛況。ジョブズは多くの雑誌の表紙を飾り、テレビニュースにも登場しました。
ところが、「ネクスト社は成功するだろうか。もちろんできっこない。いったいどこに割り込める市場があるというのか。新しいカテゴリーの先駆者だというが、そもそもどういうカテゴリーなのか」と手厳しく予言し、事実その通りになりました。(ネクスト社はハードウェア事業から撤退し、アップル社が96年に買収。)
「パーソナルヘリコプター」もそうした例の一つ。車大国のアメリカで、にわかに信じがたいことですが、第二次大戦後の発表当時、「パーソナルヘリコプターは、道路やハイウェイを時代遅れにするだろう」といった記事がずいぶん見られたそうです。
「テレビ電話」もそう。かつて、「ウォール・ストリート・ジャーナル」の一面に何度となく「ビデオフォン時代迫る、大変革到来へ」と持ち上げらました。しかし、本が出された時点ばかりか、それから20年過ぎた今でも、「電話を掛けるたびに、身なりを整える」ような状況にはなっていません。
■それでもやはり広報は必要です
パブリシティとしては、成功でも、「結局のところ、パブリシティはパブリシティにすぎない」と結論付けています。商品の価値はつまるところ、マスコミが決めるものではありません。ましてや企業であるはずもない。
広報活動の成功が、必ずしも商品の普及や販売促進にはつながらないということを、この本では伝えたいようです。それはそうでしょう。別にパブリシティに限ったことでもないし。広告も同様です。
マスコミは取材源から聞いた話を元に、予測記事を書きますが、本当にその通りになるかどうかは書いた当人にも、あるいは取材相手にも分りません。あくまで一つの見方を提示しているだけ。
はっきりしているのは、「パブリシティはパブリシティにすぎない」としても、広報にとって代わる“優れワザ”が他にあるわけではないし、やらないよりはやったほうがいいということです。