「直接会って対話することを怠るな」という教訓
■人的資産が真の企業価値であり、長期の競争力である
企業価値の評価は数字に表れる業績(経済的資産)に偏ってなされがちだが、「数字に表せない見えない資産(人的資産)こそが、企業の真の競争力であり、価値である」と、「起業で本当に成功するために大切なこと」(2015年)にありました。
著者の進藤晶弘氏はゲームソフトなどに使われるシステムLSI(大規模集積回路)を手掛けるベンチャー企業、メガチップスの創業者です。同業では国内初の、ファブレス形態のビジネスモデルにより、人的資源を集中的に研究開発に投下、成功を収めています。今では東証一部上場企業です。
本の中で、「単に『企業規模の拡大』を目指すのではなく、取り巻く利害関係者との信頼関係を大切にしつつ、健全な企業文化の浸透、人材の育成、社員に温かい経営をすることを通じて『良い会社』を目指そうと心掛けたのも、人的資産が真の企業価値であり、長期の競争力であるとの考えから」と述べています。
経営者の想いを新聞記事などで知る対外的な効果が、広報活動では重きを置かれます。しかし、上記のような真摯なコメントに触れると、外に対してはもちろん、社員のモチベーションアップに大きな効果が期待できることがわかります。
企業におけるコミュニケーションについて、本の著者は、「相手と意見や意思を相互にやり取りして結論に導く『メッセージの交換』の形で行われる」と。さらに、「人と人が直接会って対話すること」が大変重要だといいます。当たり前のこととはいえ、それに気づかされたことが以前ありました。
■「直接会って対話することを怠るな」という教訓
些末な例で恐縮ですが、クライアント向けの月次の活動報告書を郵送していたことがありました。同じ財閥系の会社を同僚と二人で担当、筆者の作った報告書を同僚に郵送を頼むのをルーティンにしていました。
ところが、数日後、A社に送るべきものとB社に送るべきものが入れ替わって提出されていたことを知らされます。A社の担当者からのクレームの電話がきっかけです。
「顔から火が出る思い」、「穴があったら入りたい」というのはこういうことを言うのでしょう。幸い、A社、B社の担当者の穏便な計らいもあって大事にはなりませんでしたが、「人と人が直接会って対話する」というプロセスを怠った結果だ、と心から反省しました。
その失敗を教訓に、それ以降は郵送することをやめ、必ず持参するようにしています。これは単に手段の問題ではありません。業務上で、「郵送やメールで事足りる」ことは確かに多いのですが、それに甘んじてはいけない。そんなことを教わった気がします。
「コミュニケーションの原点」とはすなわち「人と人が直接会って対話する」こと。広報担当者にとっては特に肝に銘じておくべきことです。言うまでもないことですが。