「常に簡潔にせよ」という「KISSの原則」と米大統領選挙
■「KISSの原則」とは?
最近「KISSの原則」というのを知りました。念のため断っておきますが、コミュニケーションの原則ではあっても、いわゆるロマンチックな方の話ではありません。
KISSとは”Keep it simple, stupid”あるいは”Keep it short and simple”の略。「常に簡潔にせよ」という意味です。stupidは「愚か者」とか「間抜け」を指しますが、「簡潔にしとけ。何度も言わせるな」といったニュアンスだと解釈できます。
人は同時に多くのことを覚えられませんし、印象に残るように仕向けたいのならなおのこと。だから、キャッチフレーズはシンプルであるのがよく、それを繰り返し訴えかけるのが鉄則。それがここでいうKISSの原則です。
■大統領選における候補者のスローガン
今年はアメリカの大統領選挙の年。11月8日の本選に向けて、民主党と共和党の候補者選びが佳境を迎えています。7月中にそれぞれの候補者が決定しますが、各候補者にとって大事なのがKISSの原則に沿ったスローガンの選定です。
8年前にバラク・オバマ大統領のスローガンはあの”Yes we can”はあまりにも有名。このスローガンが、オバマ大統領誕生に果たした役割は小さくありません。
今回の民主党の本命候補者のヒラリー・クリントンの旦那さんのビルが1996年の選挙で使ったスローガンは"Building a bridge to the twenty-first century"です。「ニュースな広告」(1999年)によれば、「幾千人もの定量、定性調査から導き出された『金の卵』であっただけに、クリントン大統領の固執の仕方も半端ではなかった。どの会場でも、どの層に対してでも、どのタイミングでも、このキャッチコピーは使われた」と。
大統領選でのKISSの原則は、活字メディアに接している有権者には機能しない。なぜなら、そうした有権者は、「イメージではなく実像で候補者を見抜く習慣がある」、「投票態度がぶれない」、そして「党へのロイヤリティが高い」からだと。
だから、浮動票狙いでコミュニケーション費用の大半はテレビメディアに投下されるし、そうした場でスローガンが繰り返し連呼される。我々日本人が持つ大統領選における候補者の印象もテレビの影響が濃いといえます。
ちなみに、今回の両党の本命候補のスローガンは、ヒラリー・クリントンが"Hillary For America"。ドナルド・トランプは"Make America Great Again!"。
両候補のHPを今回初めて見ましたが、ヒラリー候補の"Love trumps hate"(愛は憎しみに勝る)というスローガンも目立ちます。(「トランプ候補のヘイトスピーチを愛す」というダブルミーニングが想像できます。)
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