広報パーソンのつぶやき

事業会社の広報担当者と広報コンサルティングの経験からコミュニケーション全般をメインに、ライフスタイル風なネタも。全国通訳案内士(英語)

(悪気はなくても)答えに加えないほうがいいものもある

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「答えたくない質問」と「答えてはいけない質問」

 広報担当者として仕事をしていると、記者の質問にもいろんなタイプがあることがわかります。例えば、「答えたくない質問」です。出来れば触れてほしくない自社の芳しくない部分、他社や特定の個人のネガティブな情報などがこれに該当します。

 

 「答えたくない質問」では、その返答にも自然にブレーキが働くので、大事になることはほとんどありません。答えたくないと説明者自身が感じているわけですから、周りがそれほどやきもきすることもありません。

 

 一方で、「答えてはいけない質問」というものもあります。記者会見やインタビューは、発言に責任を持てる人が行うものですが、本来答えてはいけない質問に安易に答えてしまうことがたまにあります。「これって別に話してもよかったんでしょ?」などと同席している広報担当者に聞いてしまうようでは、後の祭りです。

 

 リップサービスのつもりでしゃべったことが、まだ決まっていない交渉中の提携や業績の見通しのヒントとなり、それを端緒にして記事になってしまうことがよくあります。筆者にも経験があります。場慣れしてくればそういうことも少なくなるでしょうが、そうでないと「ついしゃべってしまう」ということに。

 

 たいてい説明者に悪気はありません。なので、答えてはいけない質問を事前にブリーフィングしておいて、勇み足の発言をしないように配慮するのは、広報担当者の重要な役割の一つです。

 

■「あなたの愛読書は?」

 答えてはいけない質問で思い出すことがあります。正確に言うと答えてはいけない質問ではありませんが、「(悪気はなくても)答えとして入れないほうがいいものもある」という事例です。

 

 新任役員の紹介コーナーがある新聞社に取材をしてもらうことになりました。例年行っているもので、いわば役員のお披露目会見のような位置づけでした。なので、小難しい事業の話はほどほどにして、役員の人となりをフィーチャーした記事が後日掲載されます。

 

 各役員には、取材をスムーズに進めてもらうために、趣味、座右の銘、そして愛読書などを事前に書いてもらいました。そんな中、愛読書をいくつか挙げた本の中に「我が闘争」と書いた役員がいました。「我が闘争」といえば、ナチ党の指導者で独裁者としてユダヤ人迫害を主導したアドルフ・ヒトラーによる著作です。

わが闘争(上下・続 3冊合本版) (角川文庫)

 

 上場企業の役員になるくらいですから、「ひとかどの人物」のはずですが、「『我が闘争』が愛読書!?」と目が点になったことを思い出します。その方が、愛読書だと思っている本を、とやかく言うべきではないという気持ちがあった反面、それを知って不快に感じたり、良識を疑ったりする人も同時にいるだろうとも思いました。

 

 その役員の方には、やんわりと事情を伝えてこの本を外してもらいましたが、無用な誤解を避けるという意味で正しい判断だったと思っています。

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