広報パーソンのつぶやき

事業会社の広報担当者と広報コンサルティングの経験からコミュニケーション全般をメインに、ライフスタイル風なネタも。全国通訳案内士(英語)

ドラム缶1本分の原油流出で記者会見をする会社と2000万本分でもしない会社

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「あのブランドの失敗に学べ」

 「あのブランドの失敗に学べ」(2005年)を読みました。「ブランドの失敗はある業種に特定されるものではない。コカ・コーラマクドナルドなどのグローバルな大企業でも、ほとんどマーケティング経験のない中小企業と同様に失敗を犯すものである」と第1章で書かれているように、大小様々な失敗はえてして起こるものです。

あのブランドの失敗に学べ!

 

 「ある統計によれば、新商品の実に80%が失敗に終わっており、さらに10%が5年以内に姿を消している」といいます。本書では、そうした失敗の具体事例を引きながら、どうすればそれを他山の石として、教訓にして、それを繰り返さないようにすることが出来るかが書かれています。

 

 アイデア倒れ、自社のブランド力を過信しすぎるなど、失敗の原因もいろいろですが、その中に「広報活動の失敗」という章がありました。4つの事例が紹介されています。エクソン(現エクソンモービル)、ペリエ、P&G、ファイアストン(現ブリヂストン傘下)です。

 

 エクソンの所有するタンカーが1989年に、アラスカ湾で座礁するという事故がありました。「米国史上最大の原油流出事故」と言われています。浅瀬に乗り上げた時に船の舵を取っていたのは、その海域のタンカー操縦免許を持っておらず、船長は飲酒中でした。

 

 積まれていた大量の原油が海上に流出した結果、それまでの生態系は著しく損なわれたといいます。こうした重大事故にもかかわらず、適切な回収措置が行われないまま、しばらく放置されていたと記されています。

 

 同社のトップは、「マスコミに対して大変懐疑的で、そのスタンスでマスコミ対応を行ってしまった」と。インタビューの申し込みにも「その手のもの」に割く時間はないとまで言い切っていました。一週間経っても、会社は「口をつぐんだまま」。ようやく関係者が記者会見を開きますが、それも当時の大統領だったパパブッシュが「大参事である」とコメントしたからでした。

 

 渋々、経営トップもテレビの生番組に出ましたが、原油の回収計画の最新状況を的問に応えることもできないという体たらくでした。そうしたお粗末な態度は、同社をさらに危機的状況に至らしめるのに十分でした。

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■訓練ではドラム缶1本流出で記者会見

 とある会社で模擬記者会見の想定シナリオとして、「作業の不手際によって原油が流出した」という事例を扱ったことがあります。このときに流出した原油は200リットル、ドラム缶1本分です。

 

 「ドラム缶1本の流出で記者会見するものなのか?」と別の意味で感心しましたが、当事者たちによれば、地域や漁業関係者に与える影響や迷惑も考えれば、十分ありうることだと。

 

 ひるがえって、エクソンの事故の流出量は4万キロリットル以上とされます。実にドラム缶2000万本分に相当します。数字が違い過ぎて実感がわきませんが、模擬訓練のように1本で「大騒ぎ」することを考えれば、いかに大変な事故だったかがわかるし、エクソン社の関係者の危機意識の希薄さが際立ちます。

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