謝罪会見での初歩的なミス
■謝罪会見での初歩的なミス
通常、記者会見を開くときは周到な準備をして臨みますが、まれにそうでないこともあります。そうした事例を見聞きする機会がありました。事故の詳細はここでは述べませんが、多くの人に印象に残っているはずです。
ある重大事故が発生し、それを聞きつけたマスコミがその会社に集まり始めました。休日に発生した事故ということもあり、会社から「至急会社に来てくれ」との要請を受けて、幹部が三々五々集まり始めます。後にマスコミの矢面に立たされることになる、Aさんも、会社の割と近くに住んでいるということで、取るものもとりあえず向かったといいます。
社長の到着がしばらく先ということで、立場上、Aさんが情報収集やマスコミ対応の陣頭指揮にあたります。Aさん本人も社長が会社に到着したら、「記者会見を開かなきゃならないな」と思っていたはずですが、身なりまで気にする余裕がなかったようです。
用意された部屋にマスコミが「今か今か」と待ち構えている状況のなか、社長が会社に到着しました。関係者がそろったところで、マスコミへの説明の方針が決められましたが、ここで重大なミスを犯してしまいます。
説明にあたった三人のうち、一人は背広でしたが、社長はノーネクタイ、Aさんは私服でした。しかも、近くに散歩にでも行くような姿。謝罪を伴うような会見では身なりが大事なのは本人もわかっていましたが、それを怠ってしまいました。
■思惑が外れて記者会見になることがある
お詫びを伴う会見では、「お辞儀の三原則」ともいうべきことがあります。それは、「お辞儀にかける時間」、「お辞儀の角度」そして「お辞儀の足並みをそろえる」です。ここでいう足並みはタイミングですが、それぞれの身なりも含まれます。
身なりが大事なのは当人たちも当然承知しており、「これは記者会見ではない。後日開く」とマスコミに釈明したそうです。しかし、事故に対する初めての公式の場の説明なわけですから、そうした釈明はマスコミにとって何の意味がありません。
「これは記者会見ではない」と釈明しなければならないことがわかっているのなら、釈明しなくてもいいタイミングまで待ってもらうしかありません。突き上げによるプレッシャーで動転するのはよく理解できますが、会社にとってのベストな選択を場面場面で冷静に判断する必要があります。
ネクタイを借りたり、家で着替えてきたりと対処法はあったはずですが、マスコミ対応に慣れていないと、当たり前のことができないということが、有事の際には起こりうることがわかっていただけると思います。
きわめて初歩的なミスですが、当人たちの思惑から外れて記者会見という流れになってしまうことがあるのだと、筆者もこの時初めて知りました。「押し出されるように会見になることがある」と。