「わかっていることはだれであろうと、分け隔てなくつまびらかにする」
■米タイヤメーカーの広報活動の失敗
世界的な三大タイヤメーカーといえば、ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤーです。この三社で世界シェアの約4割を占めます。世界最大のタイヤメーカーに上りつめたブリヂストンですが、その傘下に下ったファイアストンは、かつては米国ではグッドイヤーと並ぶタイヤメーカーでした。
米国最大手の自動車メーカーであるフォードなど優良顧客も多いファイアストンでしたが、2001年5月に米国大手自動車メーカーのフォードに対する工場装着用タイヤの供給を停止する発表を行います。工場装着用と市販用は違いますが、ドライバーの大半は同じブランドを市販用でも選択することから、ファイアストンに降りかかる影響は少なくないことがこの時点でわかります。
ファイアストンとフォードの関係は古く、「約40%のタイヤをファイアストンから購入し続け、それは第二位のタイヤメーカーを大きく引き離していた」と。ところが1977年に起こした大型の品質不良問題で対フォードの絶対王座の地位を明け渡します。
それでもフォードとの関係は続きますが、90年代後半に再び問題が明るみになります。それが「広報活動の失敗」につながることになります。他国で端を発したトラブルは本国にも波及し、当局が操作を開始します。
当局への協力はしながら、タイヤの供給先であるフォードへの情報開示を拒み続けました。それは、不具合の原因が車側にあることを示唆したものでした。フォードもだまっているはずもなく、当局に対して詳細な分析を求めました。
■本当に「自分たちに原因がない」のかをよく考える
こうした「中傷合戦」を経て、前述のようにファイアストンからフォードへのタイヤ供給がストップします。この件では、100名以上がタイヤの不具合による事故で死に至ったとされます。
「わかっていることはだれであろうと、分け隔てなくつまびらかにする」ということをファイアストンがしていれば状況は変わっていたかもしれません。責任を他社や他者になすりつけようとすると結局わが身に降りかかってくる、という事例です。
JR西日本福知山線脱線事故でも発生直後の社長が出てきた会見で、原因を「置石」にあるという主旨の発言をしてしまいました。4日後には撤回する羽目になりましたが、「責任が自分たちにはないはず」という保身の意識が事態をさらに暗転させてしまいました。
この事例も「あのブランドの失敗に学べ」にあります。広報・マーケティングや危機管理に関わる人には学びの多い本だと思います。