広報パーソンのつぶやき

事業会社の広報担当者と広報コンサルティングの経験からコミュニケーション全般をメインに、ライフスタイル風なネタも。全国通訳案内士(英語)

「住友銀行秘史」では同行の当時の広報は蚊帳の外

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イトマン事件をメインバンク内部から描いたノンフィクション

 知り合いから「面白いから」と薦められて「住友銀行秘史」を読みました。著者は住友銀行出身の國重惇史氏。戦後最大の経済事件として知られるイトマン事件の内幕を描いたノンフィクションです。ベストセラーは「二周遅れ」くらいで読むことが多い筆者ですが。

住友銀行秘史

 

 イトマンは大阪に本社のある中堅商社ですが、不動産事業などに乗り出し、拡大路線によって総合商社への転換を図ろうとしていましたが、結果として数千億円の損失を住友銀行にもたらしました。ちょうどバブル崩壊のあった20数年前のことです。

 

 その損失額もけた違いですが、当時の住友銀行の会長、イトマンの社長(住友銀行出身で会長の腹心)や曲者のイトマン常務(経営コンサルタント出身の”詐欺師”)そして裏社会の怪人物など登場人物も多彩です。これらの人物がイトマンを食い物にした事件です。

 

 國重氏は当時、住友銀行の業務渉外部部付部長という立場。東京大学出身のエリートで、それまでにMOF担(大蔵省担当)などを務めていました。当時の役員や外部の事件関係者、新聞記者などが実名で登場します。「秘史」の名の通り、内部事情を深く知る國重氏でなければ書けない本です。

 

■同行の当時の広報は蚊帳の外

 その國重氏が、日経新聞のエース記者と目された大塚将司記者とタッグを組んで、内部情報を世間に知らせて、同行をいち早く健全な状態に戻そうと奮闘する姿が赤裸々に描かれています。いわば、ディープスロート側が何を考え、どのように記者と接触し、どのようにスクープ記事が報道されるかという過程がつぶさにわかる稀有な本です。

 

 記者側から書かれる本は結構あります。しかし、情報源は秘匿が原則なので、対象者はもちろん、どのようなやり取りがなされているのかを知る機会はほとんどありません。それだけに貴重で、500ページ近い分厚い本ながら一気に読ませます。

 

 大塚記者だけでなく、別の日経の記者やNHKや全国紙の記者も登場します。住友銀行の広報部長も少しだけ登場しますが、影が薄い印象です。マスコミ対策は本来、広報が窓口になるはずですが、行内の権力闘争などの影響なのか、國重氏にとっては「眼中にない」存在だったようです。広報が機能しないと会社が機能しないということを改めて感じます。

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 國重氏はこの後、同行の取締役等を務めた後、楽天の副社長に転身します。そこで女性スキャンダルを起こして失脚してしまいました。大塚記者はイトマン事件の前に、三菱銀行東京銀行の合併をスクープし、新聞協会賞を受賞しました。イトマン事件でも名をはせますが、その後2000年代に入って、日経内部の経営者のスキャンダルを追求して、同新聞社を解雇されてしまいます。

日経新聞の黒い霧

 

 このように、二人の盟友はその後もそれぞれ波乱万丈がありました。

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