■広報活動の成果を広告に換算することの意味
昔の話になりますが、クライアントの求めに応じて、広告換算費用をレポートしていたことがあります。広報活動の成果を測る指標として利用するためです。記事を定規で測って面積を計算し、誰かが作った代々受け継がれているエクセルシートにその値を入力します。
面積を入れると瞬時に広告換算費用が割り出されるという、なかなかの優れものでした。ちなみにテレビで放映された時も放映された秒数を入力すれば、同様の換算ができるようになっていました。
記事数が多いと気の遠くなるようなローテクかつ単純作業です。「広報活動による成果を広告換算することにどれほどの意味があるのか?」と自問自答しながらの作業でしたが、それを行うことで対価を得ていたわけですから、文句は言えません。
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日本語だと広報と広告とでは字面が似ていますが、英語では前者をPublic Relations、後者をAdvertisementといいます。マスコミの理解や納得を得ながら掲載や放映を「無償で」獲得することを旨としているのが広報なのに対して、そこを「有償で」行うのが広告です。
広告は膨大な予算を投下すれば商品の売り上げにつながるのが一般的です。つまり、(予算を投下すればするほど)効果が上がりやすい。一方、広報活動の効果測定は広報部門の永遠の課題ともいうべき難問です。露出すればするほどいいわけでもありません。不祥事ではネガティブな記事ばかり出てしまう訳ですから。経済広報センターが3年ごとに行っている「企業の広報活動に関する意識実態調査」でも常に最上位に上がっています。
そもそも違う広報と広告を無理やり広告費に換算してしまうので、筆者のように「意味を見いだせない」と感じる人は少なからずいるのではないでしょうか。とはいえ、他に広報活動の効果や成果を定量的に測る方法がなければ、それを継続せざるを得ないと感じる企業があっても不思議ではありませんけど。
一つ言えるのは、広報と広告の「違いがピンとこない人」には、それなりの説得力が広告換算にはあるかもしれませんが、「違いがわかればわかるほど」広告換算をすることにピンとこなくなるのではないかと。
■広告換算よりも重視していたこと
筆者が広報担当者だった会社では広告換算、記事件数、発表件数、あるいは取材件数といった定量データの管理に重きを置いていませんでした。こうした数字を年度目標にすることもありませんでした。ベテランの広報パーソンである上司の方針でしたが、筆者が同じ立場でも同じようにしたと思います。
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そのかわりにマスコミとの懇親を兼ねた情報交換は頻繁に行っていました。「自社をよく思ってもらいたい」、「取材機会を創出して、ポジティブな記事を書いてもらいたい」といった下心は当然ありましたが、自社の広報対応の印象を忌憚なく話してもらうようにしていました。また、業界を問わず広報活動に熱心に取り組んでいる会社の事例などを聞いて自社の活動に活かせるものはないかも探るようにしていました。
広告換算レポートを毎月行っていた某社の場合、複数のベテラン広報担当者が2,3年ほどで相次いで異動となり、経験年数が浅い担当者ばかりになった頃に広告換算が採用されました。その後、作業を内製化するということで契約はストップしてしまいましたが。
その会社がいまだに広告換算を行っているのかは不明ですが、そのまま今でも広報担当者としているのなら、広告換算の限界のようなものを感じているのかもしれません。