「アイス・バケツ・チャレンジ」と「モリー先生との火曜日」に共通するもの
■「アイス・バケツ・チャレンジ」と「モリー先生との火曜日」
2014年に「アイス・バケツ・チャレンジ」が流行りました。氷水が入ったバケツをかぶるというもので、各界の著名人が参加しました。元々は、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究を支援するためのものでした。
ひと時のお祭り騒ぎの感がなくもありませんが、寄付金の拡大には効果があったようです。それでも、進行の速い不治の病である「ALSの認知拡大」を目的としたもの、であったことを覚えている人はどれほどいるのでしょうか。
「モリー先生との火曜日」(1998年)のモリーはALSに侵されて死期が迫った大学教授。著者のミッチはスポーツ・ジャーナリストで学生時代のモリーの教え子。偶然、テレビで十数年ぶりに恩師の痛々しい姿を見て、再会を決めます。モリーはそのとき、78歳。ミッチは30代のジャーナリスト。
それから14回、火曜日の朝食後に恩師の講義を受けに通うことになります。社会学の教授として、複数の専門書も書いている恩師からの至言を書き留めてある本書は、二人の共同作品であり、ミッチの「最終論文」でもあったとあります。
「老い」、「死」、「愛」、「家族」といった普段あまり考えが及ばないテーマについてのモリーとミッチのやり取りがつづられ、考えさせられます。ALSが進行すると「ほとんどすべてが人の手を借りて」行われることになる。7回目の講義では、「とうとう誰かにお尻を拭いてもらうようになった」。
そんな状態で前向きでいられる理由をモリーに尋ねます。その答えは、「他人頼りを楽しむ」のだと。「人間だれしも、何から何まで世話されていた頃にまたもどりたいものなんだ」。
こうもいいます。「老人が若者をうらやまないなんて、そんなことありえないよ。ただ、問題は、ありのままの自分を受け入れ、それを大いに楽しむことだ」、「今の君の年代をうらやましがってなんていられないよ 前に自分がそうだったんだから」。
14回目の講義が最期のお別れになります。最大のハイライトでもある感動的な場面です。
■医薬品の広報活動
ところで、医薬品を扱う企業は、扱う製品の薬効をストレートにアピールすることが、法規制もあって難しいとされます。なので、必然的に疾患啓発に重きを置いた広報活動になります。
専門性が高く、かつ人命を扱う商品だけに、他の業界以上に繊細さが求められます。 医薬品を扱う企業の一つ、ジョンソン・エンド・ジョンソンの企業理念に「我が信条」というものがあります。その冒頭には、次のような一文があります。
「我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、 看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対する ものであると確信する」。有言実行こそが企業に求められること。そのお手本がここにあります。