告発状とプレスリリースに共通するもの
■不正発覚のきっかけ
記者がある疑惑を掴み、それを記事にしようと動き出すきっかけとして、「内部告発」があります。不正発覚で最も多いのがこれだといわれます。
クローズドな組織の中で、不正が続けられていることに疑問を感じて、何度も上司に相談をしても、一向にらちが明かない状況が続くとします。そのうちに、自分自身が組織の輪を乱す「不届きもの」として、嫌がらせやいじめの対象となってしまい、やむにやまれずに、マスコミや行政などに通報したり、匿名の告発状を送ったりすることになります。
約10年前に起きた菓子メーカーによる期限切れ牛乳使用問題では、告発内容が詳細に書かれた差出人の明記のない封書が通信社に届いたことがきっかけでした。このケースでは、差出人が不明だったので、通報者本人に確認することができませんでしたが、その内容が詳細で説得力のあるものだったことから、周辺取材を開始することになりました。
ロシア陸上界の国ぐるみのドーピング問題を内部告発したユーリア・ステパノワ選手の場合はロシアの反ドーピング機関の元職員である夫ともに出演したドイツのドキュメンタリー番組がきっかけでした。結局、リオ五輪への出場はかなわず、最近の報道によると、「もし私たちに何かが起こった場合、事故ではないと知るべきだ」と述べています。
【リオ五輪】露ドーピング内部告発のユーリア・ステパノワはCASに提訴せず 「出場できず非常に失望している」 - 産経ニュース
このように内部告発は、通報者に様々な実害が及ぶ危険性をはらんでいます。ステパノワ選手のケースでも、「世界反ドーピング機関(WADA)の選手情報の登録システムがハッキングされ、同選手の個人情報に不正アクセスがあった」とされ、身の危険をうかがわせる事態になっています。
■「内部告発の時代」を読んで知った「告発状の書き方」
「内部告発の時代」(2016年)によると、「ジャーナリストや報道機関にとっての『正しい行い』とは、何が起きているのかを報じることであって、内部告発者の代弁をすることではない」と述べ、「あくまで伴走者の位置づけ」だと指摘しています。
当初は協力的であった通報者も、問題が自分の想定外にどんどん大きくなってしまって不安にかられてしまうことがあるといいます。つまり、「消費者の命や健康にかかわる不正があれば、内部告発者の思うような展開にならなかったり、懇請が聞き入れられないことがありうることも覚悟しなければならない」と。
危機管理を考えるうえで、参考になることが多い本ですが、興味深かったのは、「内部告発者に必要な条件」や「告発状の書き方」です。受け取ったマスコミに腰を上げてもらうという意味で、告発状もある意味、プレスリリースなのだと感じた次第です。プレスリリースと違って、お世話になりたいものでは決してありませんが。
以下の4点です。1は言うまでもありませんが、2~4も「違法」や「不正」を別の表現にすればプレスリリースにも通じるものがあります。
- 要点が客観的で簡潔にまとまっていること。
- 問題に違法性がある場合は、具体的にどの部分がどの法律に違反するかをはっきりさせること。
- 関係者しか知りえないエピソードや事実を交えて書くこと。
- 第三者が問題点を理解しやすいように、不正が起きたストーリーを書くこと。