マーケティング戦略の二本柱は「顧客は誰なのか」と「なぜ購買するのか」
■「起業家」、「マネジャー」、「職人」という三つの人格
独立して新たに事業を始めようとする人を「はじめの一歩を踏み出そう」(2003年、マイケル・E・ガーバー著)で「三重人格」と評しています。どういうことかというと、「起業家」、「マネジャー(管理者)」、「職人」の三つの人格がそれぞれ主導権を握りたくてうずうずしているから。
一人の人間の内面で、三つの人格がしのぎを削っているのなら、一筋縄ではいかない問題です。著者によれば、起業家は「ささいなことにも大きなチャンスを見つける才能をもった人」、マネジャーは「管理が得意な実務家」。そして職人は「自分で手を動かすことが大好きな人間」と位置づけ、成長するには、三つの人格を学ばないといけないと述べます。
著者の経験では、「起業した人の中で三つの人格をバランスよく備えている人はほとんどいない。それどころか、典型的なスモールビジネスの経営者は、10%が起業家タイプで、20%がマネージャータイプ、70%が職人タイプ」だといいます。
さらに「職人は決して主導権をもつべきではない」と警鐘を鳴らし、「どんな事業を始めればいいのだろうか?」と自分に問いかけることが起業家の仕事にとって一番大切なこと」、「起業家の仕事は、疑問を持つこと、想像すること、夢を見ること」だと続けます。図らずもここでも「WHY」と問うことの重要性について言及しています。
■「スモールビジネスの大半は、幼年期と青年期にとどまったまま」
職人のままでは「幼年期」から脱することは難しい。人手が必要だと感じた時に初めて事業は「青年期」を脱しますが、成長することが前提なら、ここでも大きな壁が立ちはだかります。つまり、「手ごろなサイズ」ではなくなることで、経営者がコントロールできなくなることです。しかも、「スモールビジネスの大半は、幼年期と青年期にとどまったまま」だと。
独立しようとしている人やすでに独立してしまった人にとって、何とも厳しい記述が続きます。しかし、こうした状態のままでいないためのブレークスルーの方策が示されているのが、本書の真の目的です。
事例の一つが、マクドナルド兄弟の経営するハンバーガーショップに目を付けたレイ・クロック。世界中、どこに行っても見かけるハンバーガーチェーンの生みの親です。
ハンバーガーショップというスモールビジネスをパッケージ化し、フランチャイズにしたことに意義があるのだと。言い換えると「事業の試作モデルがあることで、スモールビジネスのオーナーは三つの人格のバランスを取りながら、事業を作り上げることができる」と。
今では、コンビニや飲食店でもフランチャイズは珍しくなくなりましたが、そのさきがけとなったのがマクドナルドというわけです。
■「会社のすべてがマーケティング」
マーケティング戦略の二本柱は「顧客は誰なのか」(属性分析)、「なぜ購買するのか」(心理分析)であると。「顧客のことを知らないままに。事業の試作モデルをつくるということは、リスクの高い賭け事と同じくらい無謀である」とも述べています。
顧客に「価値」を提供することが、ビジネスの基本です。そして、マーケティングは「価値を創造し、これを顧客に伝達するもの」。さらに言えば、価値を伝達する際に小さくない役割を果たすのが広報活動です。
本書でもマーケティングをゼロから考え直すこと、「これこそが『やるべきこと』」、「会社のすべてがマーケティング」とその必要性、重要性を力説しています。