広報パーソンのつぶやき

事業会社の広報担当者と広報コンサルティングの経験からコミュニケーション全般をメインに、ライフスタイル風なネタも。全国通訳案内士(英語)

一社員が起こした不祥事の際の模範的な広報対応

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危機管理広報のお手本

 繰り返される企業の不祥事において、そのマスコミ対応の失敗で火に油を注ぐ事態が少なくありません。そんな中で数少ない模範的な事例として知られるのが、ジョンソンエンドジョンソンと参天製薬です。

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 今から10年以上前の毎日新聞のケースもそうした危機管理広報のお手本の一つです。毎日新聞東京本社の写真部記者が、イラク戦争の取材を終え、ヨルダンのアンマン空港で手荷物検査を受けた際に、爆発が発生し、空港職員6名の死傷者を出す惨事となりました。

 

 取材中に拾った不発弾を記念品として持ち帰る途中でした。あまりにも軽率な行為というほかありません。事件発生は2003年5月2日の午前0時50分(日本時間)でした。午前1時半過ぎには、「日本人記者拘束」との第一報が通信社で流れます。午前4時過ぎには現地の日本大使館から記者の自宅に「拘束された」との情報がもたらされました。

 

 毎日新聞社の対応は素早いものでした。早朝6時と夕方4時の2回記者会見を開き、積極的な情報開示を行った。この日は常務と編集局次長が説明を行い、社長は現れませんでした。こうした場面でトップが出てくるのが常ですが、「現地の遺族に会うための準備をしている」と説明し、会見に集まったマスコミの理解が得られたといいます。

 

 実際、社長以下幹部がすぐさま現地へ飛び、顕花や遺族への謝罪を行っています。事件後一週間余りしか経っていない5月10日には、イラク戦争や爆発事件に直接関わっていない政治部、経済部の記者6人で組織された特別調査班による詳細な検証記事が掲載されました。

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■積極的な情報開示を迅速に行う

 社長会見は5月19日に記者が起訴された段階で行われ、自身を含めた関係者の処分を発表しました。記者自身も6月19日にアンマン市内のホテルで会見しました。こうした率先した会見に加え、6月22日に記者を懲戒解雇処分としたことを発表するまで、積極的に情報開示を行いました。

 

 この時の検証記事について、同紙の紙面審査・苦情受付機関「『開かれた新聞』委員会」の委員は、「誰が考えても無理だった検証記事を10日足らずで紙面化した勇気と、限界を認めつつもやった姿は共感を呼んでいるし、これからも継続してやっていくことが必要だ」、「事件後の対応は評価できる。情報公開の姿勢や検証作業は日本のメディアとしては画期的だ」と評価しています。

 

 5月3日の同紙には「深くおわびします」と題されたコメントが掲載されました。以下がその全文です。

 

「アンマンの国際空港での爆発事件の全容解明はヨルダン当局に委ねられていますが、これまでの調査から、当社の●●(実名)写真部記者の軽率な行為が重大な結果を招いたことが確認されました。戦場で報道にあたる記者としてあってはならない判断ミスと気の緩みに対する各方面からのおしかりを毎日新聞社として極めて重く受け止めております。

亡くなられた方のご冥福を心からお祈りすると共に、ご遺族、負傷された方々に深くおわびし、誠意を持って対応させていただきます。記者個人の過失とはいえ、毎日新聞社としての責任を痛感しており、事件解明の進展を待って、管理、指導する立場の者も含めた責任の所在を明確にします。」

 

 記者会見や情報開示を積極的に行う姿勢は参考にしたいし、上記のように、お詫び文も紋切り型ではなく、やさしい言葉で誠意と謝意が通じる文章だったのが印象に残っています。

(参考:「企業不祥事」2007年)

企業不祥事―会社の信用を守るための対応策

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