広報パーソンのつぶやき

事業会社の広報担当者と広報コンサルティングの経験からコミュニケーション全般をメインに、ライフスタイル風なネタも。全国通訳案内士(英語)

記者会見で必要な「言い訳」とは

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週刊文春の取材過程の一端を知る
 先日、週刊文春の新谷学編集長の講演を聞く機会がありました。いくつも興味深いエピソードを聞くことができましたが、その一つに舛添前都知事の辞任につながった一連のスクープ報道があります。

 取材のきっかけは産経新聞のネットニュースに出ていた「ロンドン、パリへの外遊に5千万円」という記事だといいます。そのニュースのコメント欄には読者の「けしからん」という不満が溜まっていました。新谷氏は「これは記事になる」と直感し、取材班を立ち上げました。


 都庁幹部に接触すると、「高額外遊も問題だが、公用車の私的利用の方がむしろ問題」とのコメントを得ました。そこで記者がしたことは都に情報公開請求をかけることでした。厚さ10㎝ほどのファイルの“ブツ読み”したところ、毎週のように金曜午後の定例会見後に(同氏の別荘がある)湯河原町に公用車で行っているという法則があることがわかりました。

 さらに、政治資金収支報告書などを調べていくうちに、正月の家族旅行「ホテル三日月」の宿泊代や習字練習用のチャイナ服等の経費を政治資金で充てていたことが分かりました。それだけでなく、親族からの情報提供もあって、母介護の実態の暴露にもつながりました。

 スクープを飛ばし続ける週刊文春の取材過程の一端を知ることができました。新谷氏によれば、「舛添氏の初期対応に不味さがあった」といい、さらに「最初から非を認めて謝っていたら、やめる必要はなかったのではないか」とも。確かにこの時の同氏の対応は理屈での説明に終始し、時には高圧的に記者に逆質問したりもしていました。マスコミあるいはその背後にいるステークホルダーに与えた印象は決していいものではありませんでした。

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 会見に出席していたテレビ局の記者がつい、「いつになったらやめてくれるんですか?」と聞いていたと、新谷氏が明かしていましたが、往生際の悪さばかりが目立ってしまいました。

■失敗会見の原因
 こういう時に真っ先にすべきことは「謝罪」です。「間違ったことはしていない」といくら抗弁しても、おかしなことをしていると多くの人が感じている以上すべきことは決まっています。「誰も理屈や言い訳を聞きたいわけじゃない」ということをわかったうえで対処すべきでした。

 数年前に関西のホテルチェーンがレストランのメニューと実際の食材が異なるということで問題になったことがありました。この時も、記者会見で同社の社長が「偽装か偽装でないかと言われれば偽装ではない」とか「偽装ではなく誤表記」などと強気の説明を行い、火に油を注ぐ結果となりました。

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 今年の1月に成人式に晴れ着を着ていくのを楽しみにしていた若い女性の気持ちを踏みにじった着物レンタル会社の社長会見もそうでした。「精いっぱいやった」とか「逃げていない」などといくら言い募っても、納得できるものでは決してありません。会見を行った日は成人の日から18日後だというのにです。

■「言い訳」の意味
 ちなみに「言い訳」を辞書で引くと、「そうせざるをえなかった事情を説明して、了解を求めること。弁解。弁明」とあります。さらに、「過失・罪などをわびること。謝罪」という意味もあることに気づきます。ネガティブ事案で記者会見を余儀なくされた場合、まず過失を素直に詫び、そのうえでそうせざるを得なかった事情を説明することが大事だと感じます。

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「良い会社に悪い広報なし」なのか?その2

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■「良い会社に悪い広報なし」なのか?②

 以前、企業取材歴の長い、ある新聞社の記者OBが「良い会社に悪い広報なし。悪い会社に良い広報なし」と力説していたことを書きました。「一理あるな」と思う反面、「いくら優秀な広報パーソンでも、その力量だけではいかんともしがたいのが、クライシスが発生した時」とも感じます。

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 つまり、緊急事態においても冷静さを失わずに、ステークホルダー側に立った判断できなければ「良い広報」 とは言えないのではないか、と。いくら平時のきめ細かな広報対応によって 、「良い会社」の評価を受けても、有事の際に、一度でもお粗末な対応をしてしまうと、一気に「悪い会社」に評価を落としてしまう。それを強く感じた広報対応が去年二つありました。

 

 それは、神戸製鋼日産自動車のケースです。神鋼は品質データの改ざんが複数商品で行われていました。また、日産では完成車の検査不正により大規模リコールに追い込まれました。神鋼も日産も日本を代表する企業の一つですし、両社の広報対応に好意的な見方をするマスコミは少なくなかったはずです。

 

神戸製鋼日産自動車の不祥事で感じたこと

 神鋼は10月8日にこの問題で初めて会見を行いました。8日は日曜でしたが、三連休の中日でもありました。このような日にわざわざ会見を行うのは極めて異例なことです。突発的な事故ならいざ知らず、その日にあえて行わなければならない理由は見当たりません。

 

 「前日夜に会見を行おうとしたが、外部弁護士に反対された」との新聞報道もありましたが、「土曜の夜はまずくて、日曜の(しかも三連休中日の)昼過ぎ」ならいいという理屈は通りません。せめて金曜に発表することはできなかったのでしょうか。本来、緊急記者会見は「早期収束の切り札」として活用すべきですが、神鋼の場合、10月だけで7回の記者会見を開くことになってしまい、そのたびに社長や経営幹部のお詫びが繰り返されました。

 

 日産は、無資格者による完成検査の不正に関する釈明会見を9月29日に行いました。国土交通省記者クラブで行った会見に出席したのは広報などを担当する2名の部長でした。今でも写真がネットに掲載されていますが、ノーネクタイ姿でお辞儀をする何ともしまらないものでした。

 

 その4日後に社長が100万台を超える大規模リコールを発表しますが、ここでも「頭を深々と下げることはせず、不祥事企業の「謝罪会見」とは明らかに違っていた」(2017年10月3日 産経新聞)と批判されました。

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■有事の際に真価が問われる広報部門

  「大したことはないと高をくくっていたのか」、それとも「『したことはない』という体(てい)を演出したかったのか」はわかりませんが、どちらにしても、危機意識が会社と社会で大きなギャップがあったために、問題を余計にこじらせてしまったと言わざるを得ません。

 

 神鋼は筆者が20年前に広報担当者をしていた会社でもあります。これまでも何度か大きな不祥事に見舞われたました。実際にそうした不祥事におけるマスコミ対応をしていた時期もあります。今回の不祥事は、それらを上回るダメージに違いありません。信頼回復は簡単ではないでしょうが、今後も見守り続けたいと思います。

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トップ人事の記者会見申し込みタイトル私案

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■トップ人事の発表

 大企業のトップ交代のニュースが続いています。

 

 トップ人事と企業の合併や買収は新聞記者にとって、最もスクープしがいのあるネタとされています。年明けから3月ごろまでは特にトップ交代の発表が行われやすい時期ということで、多くの記者が他紙を出し抜こうと、日夜取材に励んでいるはずです。

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 多少早くわかったからといって日常生活には、どうということはないのですが、記者たちにとってはスクープした事実はずっとついてまわります。勲章に違いありません。同じ新聞社の他の記者を「彼(あるいは彼女)は○○(会社名)の社長人事を抜いた」と紹介するような話を何度か聞いたことがあります。

 

 記者が血眼になるネタだけに、我々広報担当者側は徹底した情報管理が求められます。ある会社では広報部内でも限られた人間しか知らされず、発表当日になって初めてその事実を知る部員もいると聞きます。それぐらい発表に際して細心の注意が必要です。もちろん記者クラブを通じて発表の申し込みをする場合も同様です。

 

■社長交代会見が「重要な経営課題」には違いないが。。

 社長人事を資料配布だけで済ますのではなく、併せて記者会見を実施することがありますが、その場合、記者クラブの幹事社に「○○の件で本日○時から会見を行います」ということを事前に申し込まなければなりません。緊急記者会見の一種ですが、開始時間の遅くとも2時間前までにこうした申し込む必要があります。

 

 そこで広報担当者が考えなければならないのは、「発表のタイトル」です。細心の注意が必要な発表内容だけに「社長交代について」というタイトルがふさわしくないのは想像がつくと思います。そのものズバリなので、発表が行われる前に「新聞がだめならネットに先に記事を書いてしまえ」とばかりにニュースが先に流れてしまわないとも限りません。しかもそれが正確であるならまだしも、違う人だとしたら大変です。

 

 昨年2月に大手航空会社が「重要な経営課題について社長出席で会見する」と記者クラブに発表申し込みがあり、何事かと様々な憶測が飛び交ったことがありました。結果として、その内容は社長交代を発表したにすぎませんでしたが、ネガティブインパクトがもたらされるのではないかと、株の売り注文も相次ぎ、株価が急落したとされます。

 

 大手企業の場合、発表の申し込みがそのまま一行ニュースとして通信社から配信されることがよくあります。「重要な経営課題について社長出席で会見する」がトップ交代だとはいくらベテラン記者でも想像つかなかったのではないでしょうか。記者をかく乱する意図はさすがになかったでしょうが、誤解を招く表現には違いありません。

 

 この日に行われた社長交代の会見でも、「経営の案件の中で重要な決定には違いないんですけれども、そういう意味ではもう少し表現がなかったかなというのは正直反省をしております」と弁明せざるを得ませんでした。

ANA、“重要な経営課題”報道で株価乱高下 篠辺社長「申し訳なかった」 - ログミー

 

■トップ人事の発表タイトル私案

 社長交代の発表では、「代表取締役の異動について社長出席で会見を行う」というタイトルで申し込むことがまず考えられます。但し、この場合、暗に社長交代だと言っているようなものです。数年に一度のトップ交代の会見ですから、広報担当者としては一人でも多くの記者を集めようとするのは当然です。なので多少のヒントを与えて、会見の重要性を記者に判断してもらうように誘導します。ただ、「トップ交代を悟られる」懸念がある以上、会見前に速報が流れてしまうことがありえます。

 

 それを避ける方法はないのかと考えてみました。例えば「重要な人事について代表取締役が出席して会見を行う」というタイトルで発表を申し込んだらどうでしょうか。

 

 記者からは真っ先に「社長人事ですか?社長は出席しますか?」と確認の電話が広報にかかってくるはずですが、イエスともノーとも言わずに「申し訳ありませんが、会見時間までお待ちいただきたい」とすれば記者をミスリードすることもないと思うのですが。

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