広報パーソンのつぶやき

事業会社の広報担当者と広報コンサルティングの経験からコミュニケーション全般をメインに、ライフスタイル風なネタも。全国通訳案内士(英語)

大津市の保育園児の交通事故の広報対応で感じたこと

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■5月にあった痛ましいニュース

 散歩中の保育園児が亡くなった大津市の交通事故。この5月に起こった大変痛ましいニュースでした。巻き込まれた園児が通っていた保育園を運営する法人では記者会見が発生当日に開かれました。

 

 事故は午前10時過ぎに発生しました。その後わずか1時間で保育園を運営する社会福祉法人名で第一報のプレスリリースが行われています。報道によると記者会見は、夕方午後6時から行われました。記者会見には保育園を運営する社会福祉法人の代表者2名と保育園の代表者2名が対応しました。

 

 会見時間は25分間だったと報じられていますが、園長が涙ながらに受け答えをする様子がテレビに映されました。それを見て、「記者会見は必要だったのか?」、「何の落ち度もない保育園側を問い詰めている」といった記者会見の開催の是非やマスコミ批判が起こりました。映像や報道を見聞きすると、そうした意見が出て当然と思います。

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■マスコミから実施を迫られることもある記者会見

 記者会見を開くに至った経緯は知る由もありません。ただ、一つ想像できるのは、マスコミから、「会見を開くべきだ」、「いつ会見するのか」といった「強い」要請が複数あったのではないか、ということが考えられます。その理由は会見の開始時間にあります。会見は夕方6時過ぎに始まったと伝わっていますが、この時間帯は各テレビ局のニュース番組が組まれており、会見を中継するのに適したタイミングといえます。なので、この時間に合わせて記者会見を開いてほしいと、マスコミから要請されたのではないでしょうか。

 

 筆者が実際に見聞きしたケースでも、「代表者が到着するまで記者会見の開催を待ってほしい」と伝えても、「それでは遅い。代わりの人で対応できないのか」とマスコミから突き上げられて、いつの間にか記者会見という状況になってしまった、ということもありました。

 

■クライシス発生時は業務負荷が甚大

 この日の午後11時には第5報のプレスリリースが出され、今後の問い合わせ窓口を社会福祉法人に一本化するとあります。それでなくても様々な問い合わせが保育園に殺到していることが伺える状況の中で、適切な判断です。その後、プレスリリースは5月14日の第9報まで行われていますが、過酷な状況の中で、懸命に説明責任を果たそうとしていることが伺え、その姿勢に頭が下がります。

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 緊急事態をいくつか経験したベテラン広報パーソンが「クライシス発生時は業務負荷が甚大だ。外部コンサルタントと速やかにコンタクトが撮れるようにしておくべきだ」と言っていました。今回の保育園側の対応は背後にそうした支援もあったのではないかと感じさせるしっかりとした対応でした。

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ネガティブフレーズを繰り返すな

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房総半島の朝焼け

■メディアトレーニングの前に行うもう一つの訓練
 メディアトレーニングは、企業や団体のトップや幹部向けに危機管理広報の重要性を理解してもらうとともに、マスコミに対する受け答えを訓練する研修プログラムです。想定シナリオに沿って、プレスリリースや想定Q&Aを作り、模擬記者会見を行います。その後、講師が会見の受け答えや振る舞いについて講評を行うのが一般的な流れです。

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 想定シナリオは、その企業や団体にとって起こりうるリスクが題材として取り上げられます。筆者もメディアトレーニングを業務として請け負うことがありますが、会社によって当然リスクが異なるので、火災事故、情報漏洩、過重労働、検査データ不正など、シナリオもかなりバラエティに富んだものになっています。

 記者会見を行う前に、情報を対策本部に集約・整理し、広報対応を含む事態への方針を決めるプロセスがとても重要です。このプロセスがあって初めて、プレスリリースや想定Q&Aの作成ができ、記者会見も行えるといっても過言ではありません。このため、記者会見の前に対策本部会議を模擬的に行うケースもあり、セットで行ったほうが結果的に受講者の満足度も高いのではないかと思います。

■ネガティブフレーズを繰り返すな
 日本でも徐々に認知が広がっているメディアトレーニングですが、アメリカでは幹部研修のプログラムとして以前から一般化しています。それもあってかメディア対応に関する様々なtips(ティップス)がネットで紹介されています。

 

 そうしたtipsに決まって出てくるものの一つに”Don’t use negative language”(ネガティブな言葉を使うな)というものがあります。別のサイトでは”Don’t repeat negative phrases”(ネガティブフレーズを繰り返すな)とありました。言われてみるとその通りですが、なじみがないアドバイスで新鮮でした。

 記者が質問をする際に、否定的なフレーズを使ってコメントを引き出そうとすることがあります。例えば記者が「初期対応に問題があったのではないか?」、と否定的な質問をしたとします。この時の答え方として、「初期対応に問題があったとは考えていない」と答えてはいけない、というものです。

 その理由として、質問で使った否定的な表現をそのまま使ってしまった結果、その部分だけが切り取られて引用される可能性があるためだと説明されています。確かに「初期対応に問題があったとは考えていない」というコメントだけが切り取られると、不遜な印象を与える可能性があります。

 その代りに「そういうご指摘を含めて、初期対応について調査中(あるいは調査する予定)です」と答えれば、少なくとも不遜な印象を与えることはなくなります。今後のアドバイスに「ネガティブフレーズを繰り返すな」を加えたいと思います。

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東京の企業こそ地方の記者クラブに目を向けよう

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羊蹄山

■地方の記者クラブを活用しよう
 最近、地方の記者クラブについて調べる機会がありました。企業が地方でプレスリリースを配布したり、何かの催しを開いたりする際に、記者クラブがあることを知っておくと、自分たちの会社を記者により知ってもらうことができ、うまくすると記事として取り上げてもらうきっかけにつながります。

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 今回は関東と中部の二つの地方都市(どちらも県庁所在地ではない)の市役所の広報広聴課にコンタクトしましたが、どちらの市役所にも記者クラブがありました。どちらも全国的な知名度の高くない都市です。ただ、どちらの記者クラブも記者が常駐しているわけではなく、支局等を取材拠点にしており、必要に応じて記者クラブを利用しているようでした。以前、調べたことのある筆者が住んでいる地元の市役所の記者クラブも同様でした。

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 つまり、記者クラブに行っても記者に会える確率は低く、いくつかの近隣自治体を掛け持ちにしているマスコミも多いようです。とはいえ、こうした記者クラブがあると企業が発信したい情報を効率的に伝えることができるのは間違いありません。

■東京の企業こそ地方の記者クラブに目を向けよう
  大都市に本社があっても、製造拠点や研究所を地方都市に置いている企業が少なくありません。地方紙や全国紙の支局の記者との関係づくりをするのにこうした記者クラブをきっかけにすることもできます。

  広報担当者として地方都市にある工場への見学会を企画したことがあります。都内からその工場への移動時間が2時間ほどなので日帰りで実施しました。金属素材を作る工場ということで、重工記者クラブ(一般紙)と鉄鋼研究会(業界紙にのみ案内をしていましたが、今考えると、その工場のある都市の記者クラブにもアプローチをして積極的に勧誘してみるべきだったと思います。

 こうした地方の記者クラブでは、東京にあるそれと比べると配られるプレスリリースの数も少ないことが想像され、記者の目にも留まりやすいのではと考えられます。東京の企業こそ地方の記者クラブに目を向けて、リレーション強化を図るべきだと思います。

 記者クラブにアプローチしてプレスリリースを配ろうとするときに気を付けたいことに、「ニュース記事を提供するのではなく、ニュース記事の『素材』を提供する」という点です。プレスリリースがそのまま記事になることはまずありません。そこに必ず記者目線というフィルターがあります。宣伝臭がすぎるようなプレスリリースは見向きもされず、ごみ箱に直行です。取り上げられる内容にするためのポイントは以下の記事が参考になると思います。

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